病気と怪我の仕組み
病気と怪我の仕組み
ここでは、人間が病気や怪我の時、そして最期身罷る時には、魂はどのような状況にあるかということを説明いたします。
陰陽道・神道に於いては、人間の生命や活力の根源は魂であると考えられています。
つまり人間は単に肉体だけの存在では無く、肉体は魂の器であると考える事が出来るのです。
母親のお腹に肉体としての生命が宿り、十月十日の間肉体がどんどん成長していきますが、魂が入るまではただの肉体の存在であり、人間としての存在ではありません。
一般的には大体7か月くらいまで成長すると、子供が親を選んで肉体の中に魂が入り、その後出産を経て魂が宿った状態で赤子として生まれて来ます。
そして肉体が死を迎えるまでの間、健康な時には肉体の胸のあたりに鎮まっている魂は、病気や怪我などの状態に陥ると、肉体に鎮まる事が出来ずに一時的に抜け出た不安定な状況になります。
更にこの一時的に抜け出てしまった魂が肉体に戻れなくなった時、肉体の死を迎える事になるのです。
この様な観念から、神道、陰陽道に於いては特に病気や怪我の時などの一時的に抜け出た不安定な状態の魂を肉体に鎮めて安定させる為の祭祀が鎮魂行事であり、更に魂を振るわせて活力を与える祭祀が魂振行事です。
悪霊にとり憑かれたり、穢れの多い人、物、場所に関わったり、精神的に落ち込んでいたり、日蝕・月蝕などの穢れである天文現象に遭遇したりなどして次第に肉体に穢れが溜っていくことで、生命力の活力を失い、肉体が病気になったり怪我をしたりします。
すると、魂が肉体から一時的に飛び出てしまいます。
病気や怪我で傷付いた肉体を治す為に、医療によって様々な治療を施しますが、西洋医学でも東洋医学でも肉体から飛び出た魂を鎮める事は出来ません。
鎮魂と云う祭祀によって飛び出してしまった魂を肉体に鎮め、魂振と云う祭祀によって魂に活力を与える事で、医療の効果が上がり比較的早く、元の健康な肉体に戻る事が出来るのです。
病気や怪我によって肉体に何らかの損傷が起きている場合は、医療によって修復する必要があるのは当然であり、祭祀だけでは肉体を治癒する事は困難です。
このことから病気や怪我の場合は、鎮魂と魂振と云う祭祀と医療の両方を行う事で、より一層早く、元の元気な肉体に戻る事が出来ると言えます。
特に病気や怪我でない場合に於いても、常に鎮魂の祭祀を行う事で、肉体に活力を与え、生命力に溢れる人生を送る事が出来ると共に、万一病気や怪我に見舞われたとしても、重篤(じゅうとく)な状態に陥る事無く、比較的簡単に元の状態に戻ることが出来るのです。
鎮魂と魂振の代表とも言える宮中の祭祀である鎮魂祭は、即位の際の大嘗祭(だいじょうさい)と毎年秋の新嘗祭(にいなめさい)の前夜に天皇陛下が必ず行われる祭祀です。
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宇気槽の儀
鎮魂の儀では、宇気槽(うきふね)と呼ばれる箱を伏せ、その上に女官が乗って桙(ほこ)で宇気槽の底を10回突く「宇気槽の儀」が行われます。かつてこの儀は、天鈿女命(あめのうずめのみこと)の後裔である猿女君(さるめのきみ)の女性が行っており、「猿女の鎮魂」とも呼ばれていました。
魂振の儀
鎮魂の儀の後、天皇の装束を左右に10回振る魂振の儀が行われます。これは饒速日命(にぎはやひのみこと)が天津神より下された十種の神宝(とくさのかむだから)を用いた呪法に由来しています。『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』には、饒速日命の子の宇摩志麻治命(うましまちのみこと)が十種の神宝を使って神武天皇の心身の安鎮を祈ったとの記述があり、「所謂(いはゆる)御鎮魂祭は此よりして始(おこ)れり」としています。
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天皇は即位の礼に始まり、毎年行われる新嘗祭前夜の陰陽道による鎮魂の儀で穢れを祓い魂を鎮め、魂振の儀によって魂に活力を与え、生命力を蘇らせ、霊威を高めておられるのです。
魂振の身近な例ではお祭りの際に担ぐ御神輿を振る「神輿振り」です。激しいお祭りでは壊れる方が良いとされるほどに御神輿を振り動かしますが、神輿を振り動かす事で神輿に乗っておられる神の霊威が高まり、豊作や疫病退散などの願いが叶うと考えられてきました。
また農耕社会の我が国に於いては、神輿を担いで大地を踏み固めたり、相撲の力士が四股(しこ)を踏んだりする大地の魂振も大地の霊力を高める神事として行われています。
当会で執り行っている清祓(浄化)、病気平癒祈願は鎮魂の祭祀であり、鹿算加持並びに特殊祈願は魂振の祭祀です。
(知識ゼロからの神道入門 幻冬舎 より一部抜粋)
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